「選手ファースト」「アスリート・ファースト」「アスリート・センタード」。昨今の日本のスポーツ界でも、よく見聞きするようになりました。スポーツは指導者や大人のものではなく、あくまでも選手が中心であり、選手が主体性をもって主役になる。こういう考え方ですが、さらに進化した「オール・センタード」という考え方を私は提唱しています。もちろん、学童野球に携わる大人のみなさんも、それでハッピーになれるはずです。
(監修/諸星邦生)
vol.14
子どもも大人もオール・センター
私は現在、一般社団法人の日本スポーツマンシップ協会のスポーツマンシップコーチとしても活動しています。同協会では、理想とするグッドゲームを実現するための心構えとして「尊重」「勇気」「覚悟」というキーワードを掲げています。
もっとざっくりと言うと、その3つの気持ちを持つことがスポーツマンシップである、と具体的に定義しています。中でも大人のみなさん、指導者や選手のお父さんお母さんたちにオススメしたいのは「尊重」です。
当たり前のようでいて、どこか不明瞭。人によって解釈の中身も幅も異なるものが、世の中にはたくさんあります。「尊重」もそのひとつではないでしょうか。
辞書をひも解くと「尊重」とは、「価値のあるものとして扱うこと。尊いものとして重んずること」という説明がされています。では、みなさんの人間関係はいかがでしょうか。家庭、職場、野球チームなど、あらゆるコミュニティにおいて、ご自分と人との関係を思い返してみてください。
相手を尊重することができているでしょうか。活動する野球チームでは、人と人とで尊重し合うことができているでしょうか。
野球は団体競技。少なくとも9人の選手がそろわないことにはチームは成り立ちません。学童野球は特に、指導者がいないと選手は路頭に迷ってしまいます。また保護者がいるからこそ、できている活動もたくさんありますね。練習試合だって、対戦相手と審判がいて初めて実現するものです。
要するに、それぞれの存在(人)で成り立つのがスポーツであり、学童野球チームやその活動なのです。このように俯瞰して考えてみると、互いを認め合う「尊重」の必要性や重要性が分かってくることと思います。
日常の立ち居振る舞いは?
大人のみなさんには今一度、考えてみてほしいと思います。またぜひ、ふだんのご自分の言動を客観的に振り返ってみてください。
同じグラウンド上にいる人たちに対して、価値のある存在、尊い存在として接することはできていますか? その評価・程合いは可視化や数値化ができるものではありません。しかし、往々にして立ち居振る舞いに表れるというのが私の経験則です。
立ち居振る舞いとは「姿勢・話し方・聞き方・歩き方である」と、私は定義しています。またそれをそのまま、指導・サポートする高校生や大学生たちにも伝えています。
指導者のみなさんは、選手や保護者の前でどのような立ち居振る舞いをしていますか? 保護者のみなさんは、選手や指導者の前でどういう立ち居振る舞いをしていますか?
最初はそんなつもりはなかったのに、「監督」や「コーチ」や「保護者会長」などの肩書きを授かって活動しているうちに、高圧的な物言いや横柄な態度が当たり前になって常態化している。人に何かをしてもらっても、礼のひとつも口にできなくなっている。そういう大人も、少なくはないのではないでしょうか。
過去は取り戻せませんが、未来は今から変えていくことができます。「尊重」という基準から、自分を冷静にジャッジしたり、襟を正すことができる。そういう大人たちがいるチームはきっと、雰囲気や空気感から良い方向へと転じていけることでしょう。
新たな提唱、みんなを笑顔に!
さて、ここからはスポーツマンシップコーチとして、指導現場で実践をしてきた私なりの考え方を提唱したいと思います。「選手ファースト」や「アスリート・センタード」をアップデートした「オール・センタード」という考え方です。
学童チームの大多数は、互助団体ですね。大人たちの相互の協力で活動が成り立っています。
保護者であっても、指導やそのサポートを求められるケースがあります。チームの方針や指針は、創設者や毎年の指導者が決めるのが一般的だと思いますが、チーム内で明示・共有するべきものです。そこには保護者の思いもあるため、都度の指導者の立ち居振る舞いが問われることでしょう。同時に、保護者にも相応の立ち居振る舞いが求められます。
お互いに尽くした姿勢でコミュニケーションをとる。これが「尊重」となり、その影響は好循環として選手にも届くはずです。それが前向きなプレーやパフォーマンスのアップ、さらにはチームワークの醸成につながることもあるでしょう。指導者と保護者間の意見交換は、不可欠ではないにしても非常に大切だと私は考えています。
私は高校野球の監督をしていた時代に、選手の母親たちと「情報交換会」を開いたことがあります。各選手の学校での様子や家庭での様子を、みんなで共有するという試みでした。
すると、母親たちで共感し合うことも多々。また監督である私に対して、求めていることなども言葉にしてアウトプットしてくれました。そして母親たちには「監督が話を聞いてくれた」という思いが広がり、私(監督)の「親たちが話をしてくれた」という思いとも重なり、互いを尊重することにつながっていきました。
今から振り返っても、非常に有意義であったと感じています。これは一例に過ぎませんが、やはりコミュニケーションをとればこそ、認め合いが生まれるのです。
大人同士のコミュニケーションは、選手たちがより良く育つための時間でもあります。同じ保護者でも、仕事や家庭の事情などで思うようにチーム活動に参加できないケースもあります。また、有料の習い事や学習塾と同じ感覚で、子どもを預けるだけの保護者も中にはいると聞きます。あるいは、指導者と一部の保護者のみが親密で、大っぴらに飲み会などをするチームもあるようです。
そういう関わり方の「違い」や「温度差」にばかりフューチャーして反目したり、ルールを設けて排除しようとする動き。理解もできないことはありませんが、大人としていかがでしょう。まずはできるだけ、コミュニケーションをとることをオススメします。すると、勝手に色分けしてきた以上のものも見えてきて、親しみが湧くこともあるでしょう。そう、それこそ「尊重」につながっていくのです。
そういう過程が「オール・センタード」である、と私は定義しています。
選手のために、大人たちが適宜のコミュニケーションを図ること。時には、ともに学ぶ時間を設けてもいいと思います。互いの存在や意見を尊重することで、間違いなく選手たちに還元されていきます。
言うほど簡単なことではないかもしれませんが、指導者が学び続ける。保護者も学び続ける。それによって「尊重」がより強固で根強く、さらには自然なものとなり、組織やチームとしての品格も磨かれていくのだと私は考えています。
子どもも大人も、みんながセンターでいる。そういうチームに笑顔があふれるのは必然でしょう。チームは誰か一個人の所有物ではありません。みんながいるから成り立つ、みんながいるから活動できるのが野球チームです。そんな「仲間」を尊重することが、人を大切にすることにも結びつくのだと思います。
「オール・センタード」尊重し合うチームへ、ぜひ!
[野球まなびラボ 理事]
もろほし・くにお●1978年生まれ、東京都出身。大田区の美原アテネスで野球を始め、6年時から硬式の大田リトル・シニアへ。東海大菅生高で3年夏に九番・左翼で甲子園2回戦まで進出、国際武道大で4年春にメンバー入り。卒業後は保健体育科の教諭となり、東海大菅生高コーチを経て千葉・我孫子二階堂高へ。硬式野球部の監督を20年務めて、2022年夏に(一社)野球まなびラボの理事に就任。ボールパーク柏の葉にて「体軸×野球教室」や「中3塾」を主宰するほか、出張指導やメンタル講座も。1男1女の父
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